確率のバグ
探せば必ず"発見"できる:ランキング・出すぎ・乱数クイズ
まずクイズです。次の10組のうち5組は実際のロト6の本数字、5組はコンピュータの一様乱数です。人は「きれいにばらけた組」を本物と思い、連番や偏りのある組を疑います。その直感がどれだけ当たるかを確かめてから、ランキングと「出すぎ」の数理に入ります。
本物のロト6と乱数は、見た目で区別できるか
| 記号 | 本数字 |
|---|---|
| A | 09 ・ 11 ・ 19 ・ 26 ・ 29 ・ 36 |
| B | 04 ・ 07 ・ 14 ・ 20 ・ 31 ・ 41 |
| C | 08 ・ 09 ・ 17 ・ 20 ・ 36 ・ 40 |
| D | 08 ・ 14 ・ 20 ・ 21 ・ 28 ・ 32 |
| E | 02 ・ 03 ・ 12 ・ 20 ・ 34 ・ 43 |
| F | 03 ・ 04 ・ 08 ・ 10 ・ 13 ・ 17 |
| G | 09 ・ 14 ・ 18 ・ 28 ・ 30 ・ 33 |
| H | 06 ・ 11 ・ 20 ・ 23 ・ 24 ・ 31 |
| I | 02 ・ 06 ・ 08 ・ 10 ・ 25 ・ 34 |
| J | 01 ・ 11 ・ 18 ・ 30 ・ 32 ・ 42 |
答えを見る
A:コンピュータで生成した組み合わせ B:記録から:第1365回(2019-03-25) C:コンピュータで生成した組み合わせ D:コンピュータで生成した組み合わせ E:記録から:第425回(2008-12-18) F:コンピュータで生成した組み合わせ G:記録から:第846回(2014-03-13) H:記録から:第70回(2002-02-07) I:記録から:第421回(2008-11-20) J:コンピュータで生成した組み合わせ
10組から5組を選ぶ方法は C(10,5)=252通り。記録由来を4組当てる選び方は25通り、全問正解は1通りなので、あてずっぽうでも4組以上当たる確率は 26/252≈10.3% あります。全問正解でも「見抜いた」証拠にはなりません。
人が手がかりにする特徴は、本物と乱数に同じだけ現れます。連番を1つ以上含む組は実データ54.30%、生成乱数55.00%。6個すべて31以下は11.55%対12.92%。範囲が20以下の密集は6.34%対6.58%。最小が1桁は77.64%対77.69%。「連番があるから作り物っぽい」は手がかりになりません。本物の記録でも、半分以上の回に連番が入っています。
見た目で区別できないのは、人間の目が鈍いからではありません。55列の特徴量で勾配ブースティングの判別器を学習させても、実データ対一様乱数の平均AUCは 0.5018(95%区間 0.4611〜0.5280)で、乱数どうしを比べた 0.4990 と差がありません(p = 0.638)。1回ごとの判別という問い自体が、原理的に鈍いのです。
出典・データ:集計方法とデータの範囲
「出すぎた数字」は、あとから選ばれている
2,129回の本数字は全部で12,774個。均等モデルでは1数字あたり平均297.1回です。実測の最多は6の329回、最少は9の258回で、差は71回。ランキングにすれば「6は9より1.28倍出やすい」と書けます。
観測前に決めた1個の数字の出現回数:平均 Np ≈ 297.1回、標準偏差 √(Np(1−p)) ≈ 16.0回
観測前に「6」と決めていたなら、329回は平均から約+2σ、偶然としてはやや珍しい値です。しかし実際には、43個を並べてから両端を拾っています。43個の正規変数の最大値の期待値は平均から約+2.2σ、最小値は約−2.2σにあり、その差はおよそ4.4σ、つまり約70回です。71回の差は、一様乱数がまさに作るはずの幅です。
正しい検定は、43個をまとめて一つの統計量にします。ロト6の単独数字のχ²は 30.37(自由度42)で p = 0.909。多重比較を補正した基準(|z| > 3.25)を超える数字は0個。ロト7も χ² = 28.44(自由度36)、p = 0.811 で同じです。「出すぎ」に見えたのは、43個を並べて両端を拾うという探し方によるものでした。
期間を短く切るほど、見かけの偏りは大きくなります。回数の標準偏差 √(Np(1−p)) は N とともに増えますが、割合の標準偏差 √(p(1−p)/N) は N が4倍になってようやく半分です。「直近24回で高帯(29〜43)の数字が95%の回に入っていた」という発見も、理論がすでに93.8%(実測93.8%)で、珍しい発見ではありません。直近N回という切り方は、Nを自由に選べるぶん、903ペアと同じ「探索」の一形態です。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / NIST統計ハンドブック:二項分布(英語) / 集計方法とデータの範囲
903通り探せば、乱数にも「有意なペア」が32組できる
2個の数字の組み合わせは C(43,2)=903通り。特定の1ペアが同じ回に出る確率は C(41,4)/C(43,6)=15/903 で、2,129回での期待回数は約35.4回です。実測の最多ペアは53回、期待の約150%。「相性のよい2数字」として目を引くには十分な数字です。
データを見る前に、一様乱数2,000回のシミュレーションで予測を立てていました。最多ペアは期待の約160%、素朴に p < 0.05 で検定すると903組のうち約39組が「有意」、Bonferroni補正(|z| > 4.03)後は0組。偽陽性の期待値 0.05×903=45組 と整合する予測です。
| 一様乱数の予測 | 実データ | |
|---|---|---|
| 最多ペアの出現回数(期待比) | 約160% | 約150% |
| 素朴に p < 0.05 で「有意」なペア | 約39組 | 32組 |
| Bonferroni補正後に有意なペア | 0組 | 0組 |
903個の検定をまとめた分散統計量でも、実測 836.1 に対し一様乱数300回のシミュレーションは平均 890.8、範囲 779〜1163 で p = 0.810。26年分のロト6は、統計的に一様乱数と区別がつきません。それでも補正しなければ、同じデータから「当たりやすい組み合わせ32組」を"発見"できます。
ランキングの1位は、平均と比べてはいけません。乱数が作る1位と比べます。903個の候補から選び出した1位は、選び出したという操作のぶんだけ、必ず平均より上にいます。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 集計方法とデータの範囲
検出力とホールドアウト:「差がない」と「偏りがない」は別
前節のクイズで、判別器のAUCが0.50だったと述べました。ここで「区別がつかないから抽せんは公正」と書きたくなりますが、この論法には一段の飛躍があります。陽性対照として、数字7が2倍出るように歪めた乱数(+11.7ポイント)を混ぜても、同じ判別器は見抜けませんでした。AUC 0.50は公正さを示しておらず、手法が鈍いことを示しているだけです。
| 問い | 答え | 意味 |
|---|---|---|
| この1回は本物か | 当てられない(AUC 0.50) | 公正さの証拠にならない |
| この2,129回は一様か | 一様と矛盾しない(p = 0.909) | こちらが証拠 |
陰性の結論には、必ず検出限界を添えます。ペア903通りの個別の偏りは、2,000回では69%以上の偏りがないと検出できず、10%の偏りを検出するには925年分が要ります。一方で「連番を1つ以上含む頻度」のように理論確率が50%に近い構造仮説にまとめれば、4%程度の偏りから検出できます。鋭さを決めるのはデータ量ではなく、問いの立て方です。
ホールドアウト:見つけた法則を、使っていない期間で試す
事後に見つけた形は、独立なデータでしか検証できません。ナンバーズ4では全期間で数字9が+5.37%(z = +3.97)と目立ち、前半だけでも+6.56%(z = +3.43)でした。しかし前半で見つけた形を後半で試すと+4.18%、z = +2.19 で有意ではありません。ロト6の直近効果も、4期に割ると部分決定係数が 2.255% から 0.355% へ単調に減衰していました。
期間や特徴をあとから選び直したなら、比較対象の模擬記録でも同じ選び直しが要ります。うまくいった条件だけを残すと、偶然と予測力の区別がつかなくなります。ルール作りに使っていない期間で試す。当たった回だけ残さない。この二つがそろって、はじめて「検証済み」と呼べます。
出典・データ:宝くじ公式:ナンバーズ4 / 集計方法とデータの範囲
903回サイコロを振れば、奇跡は日常になる
一つの数字、一つのペア、一つの期間を事前に決めて見れば、ロト6の記録は退屈なほど理論どおりです。しかし43個の数字、903通りのペア、任意の期間、任意の特徴を横断して「何か目立つもの」を探せば、必ず見つかります。それは抽せん機の性質ではなく、探索という操作の性質です。誤判定5%の検定を、効果のない903個の候補にかければ、期待値として約45個が「有意」になります。候補が多いほど目立つものが見つかるのは、ごく自然なことです。
ランキングは、26年分の記録を振り返る読み物としてはとても面白いものです。確率の面では、過去の出現回数にかかわらず、次回の各数字が選ばれる確率はどれも 6/43 で同じです。数字によって違いが出るとすれば、同じランキングを見て同じ数字を選ぶ人が増え、当たったときの分け前が薄くなる方向です。その意味で「よく出る数字」のランキングは、他の人がどの数字に目を留めやすいかを映す情報としても読めます。
ランキングや「出すぎ」の話題を読むときの目安は三つです。第一に、目立つ数字を見たら「何個の候補から選んだか」を数える。第二に、有意と言われたら「何回検定したか」を確かめ、補正後の値を見る。第三に、法則と言われたら「作った期間と試した期間は別か」を確かめる。この三つを押さえておけば、903回サイコロを振ったときに必ず現れる奇跡を、奇跡として楽しみながら、数字の意味を取り違えずに読めます。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率
