オカルト×科学
夢ロトくんの中で何が起きているか:10セット球と、抽せん物理のふしぎ
「セット球Hが来ている」「球が絡んで混ざりの悪い回がある」「2019年に球が新しくなってから小さい数字が増えた」。どれも、物理の言葉でそのまま確かめられる面白い仮説です。球は物体で、装置は機械だからです。この記事はそうした仮説を検定できる形に翻訳し、実際に検定し、さらに「いまの道具ではまだ確かめられないものは何か」まで整理します。
「球が違えば出目が違う」は、なぜ気になるのか
ロト6の抽せん機「夢ロトくん」には、A〜Jの10種類のセット球が用意され、毎回いずれかが使われます。どのセットを使うかは抽せん直前まで公表されません。この仕組みは、想像をふくらませる余地をたっぷり残しています。Hセットの日に当せんすれば、その日のセットは特別な記憶になります。43個の球のうち「6が329回、9が258回」(第1〜2,129回)と並べば、71回の差が「球の重さの違い」に思えてくるのも自然なことです。
しかし観測前に数字を1個決めたとき、出現回数の標準偏差は√(Np(1−p))=約16回です。最多と最少の差は、43個の中からあとから両端を選んだ結果であり、一様乱数で同じ回数を回しても凸凹は必ずできます。実際、903通りのペアを素朴に p < 0.05 で検定すると32組が「有意」になり、多重比較を補正すると0組になります。26年分のロト6は、統計的に一様乱数と区別がつきません。
ここで大事なのは、「だから物理は関係ない」と飛躍しないことです。区別がつかないのは、偏りがないからなのか、偏りを見る道具が鈍いからなのか。それを分ける唯一の概念が「検出力」です。以下はこの一点を軸に進めます。先に結論を置きます。抽せん機の物理は乱数を「作っている」のではなく、乱数と区別できない出力を「生み出している」のであり、その差を外から読み取る手段は今のところ見つかっていません。
出典・データ:宝くじ公式:数字選択式宝くじの抽せん方式 / 宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 集計方法とデータの範囲
撹拌の質は「反復率」で測れる
球が絡む、混ざりが悪い、という仮説は「どの数字が出やすいか」ではなく「前回と同じものが出やすいか」に現れるはずです。ナンバーズは桁ごとに独立した風車が回る電動風車型なので、同じ位置で前回と同じ数字が出る率の理論値はちょうど10%。ロト系は連続する回で共通する本数字の個数で見ます。ロト6の理論値は6×6/43=0.8372個です。
| くじ | 測るもの | 実測 | 理論 | z |
|---|---|---|---|---|
| ナンバーズ3 | 同じ位置の反復率 | 10.106% | 10% | +0.51 |
| ナンバーズ4 | 同じ位置の反復率 | 10.330% | 10% | +1.85 |
| ロト6 | 連続回の重複個数 | 0.8341 | 0.8372 | −0.19 |
| ロト7 | 連続回の重複個数 | 1.3396 | 1.3243 | +0.42 |
| ミニロト | 連続回の重複個数 | 0.8327 | 0.8065 | +1.30 |
全体として撹拌は正常です。ナンバーズ4の z = +1.85 は「気になる」水準ですが、5本の検定のうち1本がこの程度に出ることは珍しくなく、単独で引用すべき値ではありません。ただしこれは全期間の平均です。球の世代のように時期によって条件が変わっていれば、その差は平均の中に埋もれている可能性があります。だから次に、回号で区切って見ます。
出典・データ:宝くじ公式:ナンバーズ3 / 宝くじ公式:ナンバーズ4 / 集計方法とデータの範囲
セット球の世代:分けると、見える範囲が狭くなる
ロト6のセット球には4世代あるとされます。回号と日付の対応(第138回=2003-06-05、第649回=2012-04-12、第1367回=2019-04-01)は手元データと一致しましたが、材質・重量(発泡スチロールから高密度ポリスチレンへ、14.73 gから14.09 gへ)は複数の第三者サイトの記述であり、みずほ銀行公式ページに記載はなく、一次情報は未確認です。以下は「回号の区切り」としてのみ使います。
| 回号 | n | χ² | p | 検出できる偏り |
|---|---|---|---|---|
| 第1〜137回 | 137 | 24.6 | 0.985 | 119.8% |
| 第138〜648回 | 511 | 25.6 | 0.979 | 62.1% |
| 第649〜1366回 | 718 | 36.4 | 0.713 | 52.4% |
| 第1367回〜 | 763 | 46.4 | 0.296 | 50.8% |
すべて一様と矛盾しません。しかし右端の列を見てください。これはその回数の観測で見分けられる偏りの大きさ、つまり検出限界です。世代で分けた瞬間、検出できるのは50〜120%という非常に大きな偏りだけになります。「2019年から傾向が変わった」は、いまのデータでは肯定も否定もできず、判断を保留するしかありません。
そして本命の「セット球A〜J個々の癖」は、さらに条件が厳しくなります。仮に各セットが均等に使われたとして1セットあたり約1,277観測、検出限界は96.2%。つまり、あるセットの数字が他のセットの2倍近く出ていなければ検出できません。データの側にも壁があります。どのセットを使うかは抽せん会の冒頭で立会人が指定し、公開の抽せんでその場で発表されますが、受託銀行の当せん番号案内にはセット球の項目がなく、当サイトが照合に使う公式の結果データにも含まれていません。回ごとのセットの一覧は第三者サイトの集計に頼ることになるため、この記事では検定の対象にしていません。検出力とデータの両方がまだこの問いに届いていない、いわば二重の盲点です。
出典・データ:宝くじ公式:数字選択式宝くじの抽せん方式 / 集計方法とデータの範囲
決定論的なのに、毎回ちがう結果になる理由
ここからが本題です。抽せん機はサイコロではありません。ニュートン力学に従う剛体の集合で、原理的には決定論的です。実機「夢ロトくん」を模した当サイトのシミュレーター「バーチャル夢ロトくん」は、まさにそれを実装しています。Rapier 3Dで半径25 mm・質量14.09 gの球を、反発係数0.52・摩擦係数0.32、空気密度1.225 kg/m³・抗力係数0.47の設定で、1/240秒刻みで計算します。回転盤は直径928 mm、標準120 RPM。同じビルド・同じ設定・同じシード・同じ操作tickなら、同じ6個が必ず出ます(seed 428で回帰試験済み)。
決定論と予測不能は矛盾しません。多体の衝突系は初期条件への感度が指数的で、球の位置を0.1 mmずらせば数秒後の配置は無関係になります。実機を予測するには、抽せん開始時点の43個の位置・速度・回転、装置の摩耗、その日の空気を測る必要がある。このサイトはそれを実際の抽せんから取得していませんし、現時点でそれを測る手段もありません。
「完全物理乱数」とは、乱数を生成する装置ではなく、決定論的でありながら入力を測れないため出力が乱数と区別できない装置のことです。
ここで、見る側の話も少ししておきます。ノイズの中に形を見つけるのは人間の脳の得意技で、アポフェニアという名前も付いています。Hセットの日の当せん、9の多さ、続けて出た連番に目が留まるのは、ごく自然な働きです。これは統計を扱う側も同じで、統計に慣れた人でも、あとから見つけた形を信じかけることはあります。そこで頼りになるのが意志ではなく、検定を先に決めておく事前登録と、偏りを加えて検出できるか確かめる手続きです。
もう一段、設計側の視点を加えます。毎回セットを変え、直前まで公表しない運用は、偏りをなくすためというより、偏りがあったとしても誰にも利用させないための設計です。仮にセットGにわずかな癖があっても、いつ使われるか分からなければ期待値に影響しない。検定できないことは、この場合、設計の成功を意味します。
出典・データ:夢ロトくん:技術仕様・参考値 / Rapier:決定論性の条件(英語)
測れるものと、測れないものを分ける
この記事が読者に渡したいのは「物理は関係ない」という結論ではなく、線の引き方です。第一に、「セット球の癖」の話題に出会ったら、記録の出所と検出限界に目を向けてみると、話がぐっと立体的になります。セットは抽せん会で発表されるので回ごとの記録を集めること自体は可能ですが、10セットに分けた時点で検出できるのは2倍近い偏りだけです。それより小さい「癖」は、どんなに丁寧に集計しても、偶然の揺れと区別がつきません。
第二に、「球の世代で出目が変わった」のような仮説は、物理の問いとして筋が通っています。ただし現在の道具で見える限界は、世代で分けると50%以上です。それより小さい効果は「ない」のではなく「見えない」。陽性の話でも陰性の話でも、この区別が書かれているかどうかが、主張を読み解くときのいちばんの手がかりになります。
第三に、シミュレーターは予測装置ではなく、感度を体験する装置です。同じシードで同じ結果、シードを1つ変えれば別の6個。この対比を一度見れば、「初期状態を知らずに次を読む」ことの意味が身体で分かります。第四に、予測できる対象は球ではなく人です。当せん確率はどの組も1/6,096,454で動きませんが、当たったときに分ける口数は他の購入者の行動で決まり、その行動は払戻データから観測できます。
抽せん機の中で起きていることは、物理法則に完全に従い、それでいて外からは読み切れない。その「読めなさ」は運営の不誠実ではなく、多体力学の性質と、それを誰にも利用させない運用設計の帰結です。セット球や球の世代に思いをめぐらせるのは、ロトの楽しみ方の一つです。何が測れて、どこから先がまだ測れないのかを知っておくと、抽せん会の中継も少し違って見えてくるはずです。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率
