ゲーム理論
前回の「隣の数字」は出やすいか?:3くじ・4,219回の検証と、群衆がスライドを選ぶ心理
「前回7が出たから、次は6か8」。当せん番号の隣を狙う買い方は、スライド数字やナナメ数字と呼ばれ、出目表を眺める人なら一度は思いつく手です。この直感を、ほかの記事と同じ二つの問いに分けます。機械は隣の数字を出しやすいのか。そして、人は隣の数字を買っているのか。前者はデータを見る前に検定の型を決めた上で3つのくじにかけ、後者は払戻の口数から逆算しました。答えは、前半が「いいえ」、後半が「少しだけ、はい」です。
「スライド数字」という直感:隣の数字は動きの続きに見える
前回の本数字が 7・12・25 なら、次回は 6・8・11・13・24・26 のどれかが来る。この読みには二つの物語が乗っています。一つは「数字には勢いがあり、周辺に波及する」という流れの物語。もう一つは「球は隣の球を巻き込むから、近い番号がまとまって出る」という物理の物語です。どちらも出目表の上では説得力があります。●が縦に並ぶ列の隣に、次の●が付くように見える回は、探せば毎週見つかるからです。
検定は、探してから決めると必ず何かが見つかります。そこで、データを見る前に次の型を固定しました。「隣」とは前回の本数字±1のうち、前回の本数字そのものを除いた数字の集合とする。統計量は全回の隣ヒット数の合計とし、理論値は各回の超幾何分布の期待値の和とする。窓幅は±1だけで、±2や±3は試さない。群衆の側は、集中度の対数を目的変数にした回帰の「隣ヒット数」の係数を見る。並べ替えは各2,000回、乱数のシードは固定。これで「たまたま合った窓幅を報告する」経路を閉じています。
隣の集合は、前回の6個が離れていれば最大12個、隣り合っていれば減ります。ロト6の実測では1回あたり平均9.72個、43個のうちの約23%です。機械に癖がなければ、次回の6個のうち隣に落ちる個数の期待値は 6 × 9.72 / 43 = 1.357個。「隣が1個以上出る」確率は約80%にもなります。つまり隣の数字は、機械が公平でも5回に4回は出ます。スライド数字の物語が消えない理由の半分は、ここにあります。
出典・データ:SciPy公式資料:超幾何分布の定義(英語) / 集計方法とデータの範囲
機械はスライドしない:3くじ・4,219回で理論値と一致
| くじ | 回数 | 隣の集合の平均 | 実測(個/回) | 理論(個/回) | 並べ替え p | 検出限界 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ロト6 | 2,129 | 9.72 / 43 | 1.363 | 1.357 | 0.748 | ±3.0% |
| ロト7 | 690 | 10.39 / 37 | 1.923 | 1.966 | 0.271 | ±4.1% |
| ミニロト | 1,400 | 7.80 / 31 | 1.264 | 1.259 | 0.826 | ±3.7% |
ロト6は2,129回で、隣が出た個数は1回あたり1.363個。理論値1.357個との差は z = +0.30、回の順序を入れ替えて前回との関係を壊した並べ替え検定でも p = 0.748です。「隣が1個以上出た回」は実測80.50%に対して理論80.10%。ロト7は逆にわずかに少なめ(p = 0.271)、ミニロトは理論と重なります(p = 0.826)。3くじで向きも揃わず、どれも偶然の幅の中です。
方法そのものが鈍っていないかも確かめました。同じ計算を「前回の数字そのものが再登場する個数」に当てると、ロト6で実測0.834個/回、理論0.837個/回。隣でも本体でも、機械は前回を覚えていません。
「差がない」だけでは結論になりません。どこまで小さな偏りなら見逃したかを添えます。ロト6の2,129回は、隣の出やすさが理論から±3.0%ずれていれば有意になる大きさの標本です。つまり、もし機械が隣の数字を3%以上ひいきしていれば、この検定は捕まえていました。3%未満の偏りは否定できませんが、仮に3%の偏りがあっても、1/6,096,454という確率の大きさはほとんど変わりません。ロト7(±4.1%)とミニロト(±3.7%)も同じ桁です。
期待される隣ヒット数 = 選ぶ個数 × 隣の集合の大きさ ÷ 数字の総数
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 宝くじ公式:ロト7のルールと当せん確率 / 宝くじ公式:ミニロトのルールと当せん確率 / SciPy公式資料:超幾何分布の定義(英語) / 集計方法とデータの範囲
人はスライドを買っている:隣1個で集中度+0.5%
機械が隣を出さないなら、話はここで終わりでしょうか。ロトは購入者どうしのゲームなので、もう半分が残っています。人が隣の数字を買っているなら、隣を含む出目が当たった回は、当せん者が多く、1口の分け前が薄いはずです。それは払戻データに写ります。
使う指標は、群衆の選好の記事と同じ「集中度」です。4個一致の口数を3個一致の口数で割り、均等に買われた場合の理論比(ロト6は0.0643)で割ります。売上の規模が違う回どうしを比べられ、1を超えれば、その回の出目は平均より多くの人が持っていたことになります。集中度の対数を目的変数に、出目に含まれる隣の個数を説明変数に置き、既知の癖である合計値(小さい数字の人気)、連番の組数、31以下の個数、前回の数字そのものの重複数を統制しました。
| くじ | 対象回数 | 隣1個あたり | t | 並べ替え p | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| ロト6 | 2,128 | +0.5% | +2.73 | 0.012 | 隣を買っている |
| ロト7 | 689 | +0.1% | +0.53 | 0.610 | 判定不能(標本不足) |
| ミニロト | 1,399 | +0.9% | +2.61 | 0.011 | 隣を買っている |
ロト6では、隣が1個増えるごとに集中度が+0.5%(t = +2.73)。前回の割り当てを無作為に入れ替えて同じ回帰を2,000回繰り返した並べ替え検定で p = 0.012です。ミニロトはさらにはっきりしていて、隣1個あたり+0.9%(p = 0.011)。ロト7は+0.1%で向きは同じですが、689回ではロト6と同じ大きさの効果を検出する力がなく、判定不能と書くのが正直です。
| 隣の個数 | 回数 | 集中度の中央値 |
|---|---|---|
| 0個 | 415 | 0.970 |
| 1個 | 824 | 0.974 |
| 2個 | 642 | 0.980 |
| 3個以上 | 247 | 0.985 |
群ごとに見ても、隣が0個の回の中央値0.970から3個以上の回の0.985へ、階段のように上がります。統制変数の側では、合計値の係数が t = −11.56で、既知の「小さい数字が人気」がそのまま再現しています。方法は生きていて、その上に小さな新しい癖が乗っている、という構図です。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 宝くじ公式:ロト7のルールと当せん確率 / 宝くじ公式:ミニロトのルールと当せん確率 / 集計方法とデータの範囲
未来の隣には反応しない:プラセボ対照と、2回前の影
この種の回帰で一番怖いのは、隣ヒット数が別の何かの代理になっていて、人の行動とは無関係に集中度と相関してしまうことです。そこで、同じ回帰の「前回」を差し替えて対照を置きました。一つは「次回の出目の隣」。次回の当せん番号は購入時点で誰にも分からないので、もし人の反応を測れているなら係数はゼロでなければなりません。もう一つは「2回前の出目の隣」。人が直前の1回だけを見ているのか、もう少し広く最近の出目を見ているのかが分かります。
| くじ | 前回の隣 | 2回前の隣 | 次回の隣(プラセボ) |
|---|---|---|---|
| ロト6 | +0.0051(t = +2.73) | +0.0044(t = +2.46) | −0.0006(t = −0.31) |
| ロト7 | +0.0013(t = +0.53) | +0.0003(t = +0.13) | +0.0001(t = +0.05) |
| ミニロト | +0.0091(t = +2.61) | +0.0040(t = +1.17) | +0.0017(t = +0.51) |
プラセボは3くじとも t が+0.51以下で、事実上ゼロです。効果は方法の副産物ではなく、購入時点で見えていた数字に対する反応です。興味深いのは2回前で、ロト6では前回とほぼ同じ大きさ(t = +2.46)の反応が残ります。人は「直前の1回のスライド」を狙っているというより、出目表で最近●が付いた列の周辺を、なんとなく買っている。そう読むのが自然です。ミニロトでは2回前で半分に減り、減衰が見えます。
この読み方は心理学でいう利用可能性の話と整合します。最近見た数字は思い出しやすく、思い出しやすい数字の周辺は「ありそう」に感じる。出目表という視覚的な道具が、その感覚を列の隣に向けて増幅します。機械は何も覚えていませんが、出目表を見る側の記憶は、1〜2回ぶん残っています。
出典・データ:集計方法とデータの範囲
