ゲーム理論
キャリーオーバー戦略の損益分岐:2.9億と1.2億、確率は同じ71%
「キャリーオーバーが発生している回だけ買う」は、ロトでよく知られた作戦です。理屈は単純で、前回までの購入者が積み立てた1等の原資を、今回の1等当せん者が受け取れる。この直感には、数字で確かめられる部分と、そうでない部分があります。当せん確率は繰り越しの有無で変わらず、変わるのは当たったときの金額と、その上限です。26年分の賞金列で、どこまで動くかを測ります。
実測:確率は同じ71%、賞金は2.4倍
前回から繰り越してきた回は938回、繰り越しなしの回は1,191回です。それぞれで「1等が1口以上出た割合」と「1等が出た回の1口あたり賞金の平均」を比べます。
| 繰り越しなし | 繰り越しあり | |
|---|---|---|
| 回の数 | 1,191 | 938 |
| 1等が出た割合 | 71.8% | 71.2% |
| 1等が出た回の平均賞金(1口) | 1.21億円 | 2.93億円 |
| 1等が出た回の中央値 | 1.13億円 | 繰越額により1.5〜6.0億円 |
1等が出た割合は71.8%と71.2%で、ほぼ同じです。繰り越しがあっても、選ぶ数字の範囲も個数も変わらないので、当たりやすさが変わる理由がありません。一方、1等が出た回の平均賞金は約1.21億円から約2.93億円へ、約2.4倍に跳ね上がります。
1口が1等になる確率 = 1 / 6,096,454 (繰り越しの有無にかかわらず一定)
繰り越しは「当たりやすさ」ではなく「当たったときの金額」を動かします。この一文を、以下の全部の前提にします。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 集計方法とデータの範囲
原資収支式:前回までに積み立てられた原資を、今回の1等当せん者が受け取る
当せん金の仕組みは一本の恒等式で書けます。当回の売上から当せん金に回る原資を A、前回から持ち越した繰越額を C前、当回に実際に払い戻した総額を R、次回へ持ち越す額を C次 とすると、
A + C前 = R + C次
1等の原資は、A のうち1等に配分される割合に C前 を足したものです。1等が0口なら、その回の1等原資はまるごと C次 になり、次回の1等原資に上乗せされます。つまり繰越額とは「前回までに1等を当てられなかった全購入者が積み立てた1等原資」であり、今回の1等当せん者は、自分の回の売上だけでなく、過去の回の売上から生まれた原資を受け取ります。
当回の原資1億円に前回からの2億円が乗って3億円を払い戻せば R/A は3ですが、当回だけで原資が3倍になったのではありません。過去から入った分を含めて払っています。5等は原則1,000円の固定額で繰越の影響を受けず、2等〜4等も当回の原資を口数で割る仕組みなので、繰り越しで厚くなるのは1等だけです。
繰越額は毎回リセットされるわけではなく、1等が出ない限り積み上がります。対象期間で最も大きかった繰越額は約18.85億円でした。1等が0口の回は606回、全体の約28%で、平均するとおよそ3〜4回に1回は原資が次へ送られています。
数値例:1等原資が3回続けて送られると何が起きるか
説明のため、毎回の1等原資を1億円、1等の当せん口数を「出た回は1口」とします。1回目に1等が出なければ C次 = 1億円。2回目も出なければ、その回の1億円に乗って C次 = 2億円。3回目も出なければ3億円。4回目に1口出れば、その人は当回の1億円と繰越の3億円を合わせて4億円を受け取り、C次 = 0 に戻ります。4回分の購入者が積み立てた原資を、1人が受け取る。これがキャリーオーバーの仕組みで、繰越金はすべて購入者の売上から生まれた原資です。
1等が出ない確率を各回で独立に約0.28とすると、いったん繰越が始まってから続く回数の平均は 1/(1−0.28) ≈ 1.4回、3回以上続く確率は約8.1%です。実際に繰越額が6億円以上に達した回は75回、全体の約3.5%でした。巨額のキャリーオーバーはめったに訪れない特別な回で、次の節で見るように、その金額には上限もあります。
上限6億円と、繰越額の帯ごとの回収率
ロト6の1等は理論値2億円、キャリーオーバー発生時の上限が1口6億円です。この上限は賞金列に痕跡を残しています。繰り越しなしの回で1等賞金が2.00億円を超えた回は0回。ちょうど4億円で止まった回が49回、ちょうど6億円で止まった回が65回あり、6億円の初出は第1,157回(2017/3/16)です。切りのよい額で止まるのは、原資が上限に当たった回です。
前回からの繰越額を5つの帯に分け、各帯で1等が出た割合、1等が出た回の平均賞金、6億円で止まった回数、そして等級ごとの理論確率に賞金の平均を掛けた「1口200円あたりの期待払戻」を並べます。
| 繰越額 | 回数 | 1等が出た割合 | 1等の平均賞金 | 6億円で止まった回 | 期待払戻 | 回収率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| なし | 1191 | 71.8% | 1.21億円 | 0 | 97円 | 48.7% |
| 1億円未満 | 182 | 64.3% | 1.86億円 | 0 | 101円 | 50.4% |
| 1〜3億円 | 488 | 71.7% | 2.63億円 | 0 | 116円 | 57.9% |
| 3〜6億円 | 193 | 73.6% | 3.70億円 | 34 | 130円 | 64.9% |
| 6億円以上 | 75 | 78.7% | 4.96億円 | 31 | 145円 | 72.3% |
繰り越しなしの回の回収率は48.7%で、法定の「5割以下」とぴたり整合します。繰越額が増えるほど回収率は単調に上がり、6億円以上の帯で72.3%です。繰越額が数倍になっても、回収率は同じ倍率では伸びません。
巨額キャリーでも回収率の伸びが緩やかになる理由
理由は二つあります。第一に、繰越額がいくら積み上がっても、1口が受け取れる上限は6億円です。6億円以上の帯では1等が出た59回のうち31回が上限で止まっており、超過分は次回へ送られます。繰越額が大きい回ほど、原資のうちその回の当せん者には届かず、次回の原資に回る部分が増える構造です。
第二に、上限に届かない場合でも、1等の原資は当せん口数で割られます。繰越額が大きい回は売上も増え、当せん口数も増えるので、原資が2倍でも1口の受取額は2倍になりません。表の「1等の平均賞金」が繰越額ほど伸びていないのは、この分割の効果です。上限と分割の二つの仕組みが、巨額キャリーの回の回収率の伸びを穏やかにしています。
1口の期待払戻 ≈ Σ 等級k の確率 × 等級k の平均賞金 (1等は1等が出た回の平均、上限6億円を含む)
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / SciPy公式資料:超幾何分布の定義(英語) / 集計方法とデータの範囲
損益分岐:回収率が100%に届く回はあるか
「損益分岐」を「回収率が100%を超える繰越額」と定義するなら、対象期間の2,129回には、その回はありませんでした。最大の繰越額約18.8億円の回でも、上限6億円と当せん口数の分割により、1口の期待払戻は200円に届きません。
繰越額の帯で回収率が単調に上がるのは、当たったときの金額が大きくなるためです。繰り越しなしの回の48.7%と、3〜6億円の帯の64.9%では、同じ200円で期待払戻が約32円違います。
| 繰越額 | 回収率 | 読み方 |
|---|---|---|
| なし | 48.7% | 法定の還元率とほぼ同じ水準 |
| 1億円未満 | 50.4% | なしとほぼ同じ |
| 1〜3億円 | 57.9% | 回収率が明確に上がる最初の帯 |
| 3〜6億円 | 64.9% | 上限に当たり始める。伸びが鈍る |
| 6億円以上 | 72.3% | 最も高い帯。上限6億円で伸びが緩やかになる |
同じ数字を2口買うと、何が変わるか
同じ6個を2口買っても、その組が出る確率は1口と同じです。自分がその組の唯一の当せん者なら、2口に分けても受け取る合計は1口のときと同じ原資で、上限も1口6億円が2口分になるだけです。ほかにもその組の当せん者がいるときだけ、自分の分け前が1/2から2/3へ増えます。同じ組を2口買うより、違う組を2口にしたほうが、当せんとなりうる組の数は増えます。1口ごとの確率は変わりません。
推計の限界について
表の回収率は、あくまで記述的な推計です。1等の平均賞金は1等が実際に出た回の平均なので、「出なかった回に自分が1口だけ当たっていたら受け取れた額」は含んでいません。その額は当回の1等原資と繰越額の合計(上限6億円)で、出た回の平均より大きい場合もあれば小さい場合もあります。また自分の口が当せん口数に加わる効果(自分が当たれば W が1増える)は無視しています。方向としては、繰越額が大きい帯ほど回収率が高いという順序は動きませんが、小数点以下の値を精密な期待値として扱わないでください。
参考までに、繰越の影響を受けない部分だけを取り出すと、5等(本数字3個一致、約1/39)は原則1,000円の固定額なので、1口200円に対して25.5円、回収率にして約12.7%を常に占めます。繰り越しなしの回の回収率の4分の1は、この固定額が支えています。ミニロトにはキャリーオーバーがなく、1口の上限は4,000万円で、当せん金の変動要因は売上と口数だけです。「繰越がある回だけ買う」という考え方は、繰越のあるくじならではの話題です。
キャリーオーバーの回だけ買うと、何が変わるか
繰り越しなしの回を全部休むと、対象期間では約56%の回を買わないことになります。1等の確率は残った回でも同じなので、買う回数が減ったぶん、当たる機会も減ります。これは「当たったときの金額」に注目した考え方で、「当たりやすくする」方法ではありません。繰越額の大きい回の回収率は、上の表の帯ごとの値のとおりです。
この記事は仕組みと数値を説明するもので、購入や買い方を勧めるものではありません。楽しむときは、無理のない金額で。
キャリーオーバーは、当せん確率を変えずに、前回までの購入者が積み立てた原資を今回の1等当せん者へ届けます。その金額には6億円の上限があり、上限の下で回収率は50%から72%まで動きます。
出典・データ:宝くじ公式:ロト6のルールと当せん確率 / 集計方法とデータの範囲
